世界のイノベーションの現況 【教育・科学技術イノベーションの現況【2023年版】】
2024.05.21
3-2 世界のイノベーションの現況
3-2-1 概況
2021年に政府は第6期科学技術・イノベーション基本計画を決定した。これは次の10年程度を見据えつつ、2025年までの5年間の日本としての大きな方針を定めたものである。第5期までの計画では「科学技術基本計画」という名称が使われており、新たに基本計画名にイノベーションという言葉が明示的に示されたことが特徴となっている。これは科学技術と共にイノベーションを一層強く推進していくという政府の意図が反映されたものと考えることができる。
2022年に改正された科学技術・イノベーション基本法では、従来対象としていなかった人文・社会科学のみに係るものが法の対象とされ、あらゆる分野の知見を総合的に活用して社会課題に対応していくという方針が示された。これは、人文・社会科学の「知」と自然科学の「知」の融合の必要性を指摘したものである。
イノベーションの定義については、この基本法第2条において、「この法律において「イノベーションの創出」とは、科学的な発見又は発明、新商品または新役務の開発その他の創造的活動を通じて新たな価値を生み出し、これを普及することにより、経済社会の大きな変化を創出することをいう。」と定義されている。
過去数十年にわたり、日本は長期的な視野を持った研究開発と高度な技術を活かした製造業を通じて多くの分野で多様なイノベーションを生み出してきている。しかし近年我々の生活に大きな影響を与えるイノベーションの多くは海外で生み出されて日本に輸入される傾向が強くなっている。この一方で日本発の画期的な新製品はなかなか生まれにくくなっており、国の基本計画にイノベーションという言葉が明示されたのはこの状況に対処しなくてはならないという危機感の表れと言えよう。
21世紀に入って以降、世界各国ではイノベーションを更に広い概念でとらえ、これを創出するための社会環境の整備を含めた多様な政策を展開するようになってきている。
重要とされているのはオープンイノベーション、即ち製品開発や研究開発などにおいて、他の組織や機関などが持つ知識や技術を取り組んでいくことである。各国は、企業、大学、公的研究機関の連携強化とベンチャー企業の創出強化を図ると共に、トップクラスの研究者等が組織の壁を越えて、流動化することを促進することなどにより、イノベーションが生み出されるシステムを強化している。
そこで、ここでは世界の代表的な競争力ランキングの状況から日本の現状を捉えるとともに、イノベーションの成果を国全体の生産性から把握する。更に産業における状況として世界のユニコーン企業数の状況、ハイテク産業貿易の状況を概観する。さらに、イノベーションの捉え方と言う視点から、イノベーション調査を通じて明らかになっている世界の企業イノベーションの実現状況を紹介する。
(桑原 輝隆)
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