世界からみた日本の教育全般の状況 【教育・科学技術イノベーションの現況【2023年版】】

2024.05.14

2-1-13 世界からみた日本の教育全般の状況

 

1.「日本型学校教育」に対する高い評価

急激に変化する時代の中で、「一人一人の児童生徒が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすること」を目指し、日本の学校教育は推進されている。こうした豊かな人生及び持続可能な社会の創り手を育むことを目指している点など諸外国と共通する部分もあるが、日本の学校教育には固有の特徴があり、その在り方は「日本型学校教育」と言われることがある。

1991年1月26日にとりまとめられた中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」は、「学校が学習指導のみならず、生徒指導等の面でも主要な役割を担い、様々な場面を通じて、子供たちの状況を総合的に把握して教師が指導を行うことで、子供たちの知・徳・体を一体で育む『日本型学校教育』は、全ての子供たちに一定水準の教育を保障する平等性の面、全人教育という面などについて諸外国から高く評価されている」(同答申、5ページ)と整理した。

学力面では、経済協力開発機構(OECD)が2018年に実施した「生徒の学習到達度調査(PISA)」においては読解力については課題が残されたものの、数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、引き続き世界トップレベルであり、国際教育到達度評価学会(IEA)が2019年に実施した「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の調査においても、小学校・中学校ともに算数・数学、理科の「勉強は楽しい」と答えた児童生徒の割合は増加傾向にあり、算数・数学、理科の調査結果は、国際的に見ても引き続き高い水準を維持している。さらに、諸外国からは、「日本型学校教育」の海外展開が要望されるようになっている。

2.GIGAスクール構想の実現による「令和の日本型学校教育」の構築

他方、「日本型学校教育」には、子供たちの多様化(特別支援教育を受ける児童生徒や外国人児童生徒等の増加、貧困、いじめの重大事態や不登校児童生徒数の増加等)や、学習場面におけるデジタルデバイスの使用が低調であるなど、教育、学習に関する課題が残されている(同答申、5ページ)。

こうした課題を解決する上で大きな力を発揮することが期待されているのがGIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想である。これは、「1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、特別な支援を必要とする子供を含め、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育ICT環境を実現する」(文部科学省「GIGAスクール構想の実現へ」)ことを目指すものである。令和元(2019)年度補正予算及び令和2(2020)年度1次補正予算において文部科学省所管分で総額4,610億円が投入された一大国家プロジェクトである。

このGIGAスクールで整備されたICTを最大限活用し、これまで以上に「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実し、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげ、カリキュラム・マネジメントの取組を一層進め、豊かな人生及び持続可能な社会の創り手の育成に向けた挑戦が学校では進められている。ICTを活用することにより、支援が必要な子供により重点的な指導を行うことなど効果的な指導を実現し、特性や学習進度等に応じ、指導方法・教材等の柔軟な提供・設定を行う、また、子供の興味・関心等に応じ、一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することを通じた「個別最適な学び」の実現がこれまで以上に可能となった。さらに、探究的な学習や体験活動等を通じ、子供同士で、あるいは多様な他者と協働する機会を提供することを通じて、一人一人のよい点や可能性を生かすことで異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出す「協働的な学び」もICTを活用することによってその質が飛躍的に高まり、離れた場所の人とも学び合うことが可能となった。

また、ICTを活用して、学習履歴(スタディ・ログ)や生徒指導上のデータ、健康診断情報等を利活用することにより、これまでの我が国の教育実践と最先端のICTとのベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出す取組も進められている。

3.教員の過重な勤務負担と保護者の重い教育費負担

 これまでの「日本型学校教育」には、本来であれば家庭や地域でなすべきことまでが学校に委ねられることになり、結果として学校及び教員が担うべき業務の範囲が拡大され、その負担が増大しているなどの課題があり、その持続可能性が問われる事態となっている。例えば、これまで日本の教員が「当たり前」のように行ってきた、通学路の安全確保や、給食・昼食時間の食育、学校徴収金の徴収事務などは、諸外国においては教員によって行われることはほとんど無い。

こうした教員にかかる負担の現状は、2018年に実施されたOECD国際教員指導環境調査(TALIS)の結果にも表れている。日本の教員の1週間当たりの勤務時間は参加国中で最長となっているが、勤務時間の内訳を見ると、授業時間は参加国平均と同程度であるのに対し、課外活動の指導時間や事務業務の時間が長いことが示されている。また、人材不足感も大きい。

 近年、教員勤務負担の軽減に向け総合的な取組が進められ、全ての職種において在校等時間(在校している時間から休憩時間及び勤務時間外の自己研鑽や業務外の時間を引いた時間)が減少したものの、「過労死ライン」と言われる月80時間の残業に相当する可能性がある教員は、中学校で36.6%、小学校で14.2%であり、依然として長時間勤務の教師が多い状況にある(文部科学省「教育勤務実態調査(令和4年度)(速報値)」)。

 公教育支出の国内総生産(GDP)に対する比率、教育支出における公費の比率のいずれを見ても、日本は先進国で最も低い部類に属し、公教育に余りお金をかけていないことが分かる。こうした低コストによる高い成果は、教員の献身的な取組と保護者の重い教育費負担によって維持されてきたと考えられる。こうした状況の下、教員採用倍率は低下し、教員不足が深刻化するとともに、少子化は進行し続けている。学校教育において、豊かな人生及び持続可能な社会の創り手を育むことは、社会全体に多様な恩恵をもたらすものであり、国民全体のコストの負担及び多様な大人が対等なパートナーとして学校教育や子育てに参画する制度と文化の構築が「令和の日本型学校教育」実現に向けた喫緊の課題と言えよう。 

 (藤原 文雄)

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