コラム:東アジアにおける初等中等教育の現況 【教育・科学技術イノベーションの現況【2023年版】】 

2024.05.01

コラム:東アジアにおける初等中等教育の現況

 「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」のOECD諸国以外も含めた結果において、上海市は2009年に初参加して以降、2009年及び2012年に科学的リテラシー、読解力、数学的リテラシ-の全ての分野の成績において第1位を獲得した。2015年には上海市を含めた中国の各都市、北京市、上海市、江蘇省、広東省の4地域が、2018年には北京市、上海市、江蘇省、浙江省の4地域が参加して4地域合同の結果が出るようになり、上海市のみの結果はわからなくなったが、2018年には、4地域は全ての分野の成績において第1位を獲得し、再度中国の結果に注目が集まった。PISAの経年的な成績を見ると、日本、韓国、香港、マカオ、台湾、シンガポールなどの東アジアの国々が常に上位を占めており、日本を除いて人口規模及び国土の面積が比較的小さい国・地域では教育政策及び教育行政が末端まで浸透しやすいためにPISAの成績上位を占める傾向にある。東アジアの各国・地域は21世紀に必要とされるキー・コンピテンシーに対応したカリキュラム改革を1990年代後半から行い、2000年代から教育現場で実践してきており、その成果が短期間で反映できた国・地域が2010年代の高成績につながっている。同時に、東アジア圏では子供の学習を重視する社会文化的背景からテスト問題に対応したドリル型の学習を行い、児童・生徒がテストに慣れていることも高成績の要因となっていると推測される。ただし、上海市が常に上位を獲得している点については、同市が1980年代から日本のカリキュラムを研究して教育改革に反映させた影響が大きいであろう。上海市の成功は、北京市等の中国国内の他の地域及び中国全土のカリキュラム改革に影響した。東アジアにおけるPISAにおける高成績の要因は、教育政策の成功や学習に熱心な社会文化的背景だけでなく、各国・地域が先進的な教育を実施している国の制度を相互に調査・分析し、教育政策に反映させたことによって成し遂げられている。

参考:文部科学省『諸外国の教育動向』 各年版、明石書店

(新井 聡)

本稿の内容は文部科学省を代表するものでなく、執筆者が公表資料等を参考に執筆したものである。

 

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