世界から見た日本の科学技術に関する国際協力の現況 【教育・科学技術イノベーションの現況【2023年版】】

2024.05.22

3-3-3  世界から見た日本の科学技術に関する国際協力の現況

 科学技術に関する国際協力には多くの要素があり多様性を持って実施されている。即ち国境を越えた研究者個人同士の関係から発展した共同研究もあれば、複数国の機関間の協力協定などに基づいて実施される共同プロジェクトもあり、また国際的な機関が中心となって多くの国が参加する大型のプロジェクトまで存在する。論文の国際共著関係についての考察は、論文が科学技術研究の一つの目標であるという観点から見れば、国際協力の重要な部分を表現しているということができようが、ただ同時にすべてを見ることができるわけではないことにも留意しなくてはならない。

 21世紀に入り、世界各国は国際競争力の基盤となる基礎的な研究力の強化に力を注ぐようになった。この一環として、北米や欧州では自国の大学の教育・研究能力の一層の強化を重視するようになり、様々な国際的大学ランキングが作成され、関心を集めている。この背景には研究力の強化と共に、それを支える高レベルの人材をいかに育成するか、また優れた人材をいかに世界から集めるかが国力向上の鍵と考えられていることがある。

 わが国においては少子化が進む中で、科学技術の発展を支える若い人材をいかに確保し、育成していくかは世界各国以上に重要な課題であると言えよう。しかしながらこの点に関しては最近の国内動向は望ましい方向に進んでいない。まず大学院博士課程に進む日本人学生が減少している。様々な要因があるが、研究者としてのキャリアパスの魅力があまり高くないことに対処する必要がある。更に、海外からの人材の導入についても、以前より次第に難しくなってきている。また、留学で海外に出る日本人学生も増えず、アメリカのトップ大学の日本人学生数が減少していることが大きな懸念を呼んでいる。

 このような困難な状況に対処しつつ、科学技術に関する国際協力をより有効に進めていくためには、世界がどのような方向に動いているのか、どのような新しい動きが生まれているのかをウォッチすることが重要である。論文の国際共著から考察する世界の科学技術の国際協力の動向分析はこれに対応できる重要なデータ源である。

 今回のデータ分析から明らかとなったことを整理すると次の通りである。

  1. 世界各国は研究活動を強化充実しており、その結果として論文数が増加している。いくつかの国においてはその増加が極めて顕著であり、そのような国の動向に注目する必要がある。
  2. 論文については欧米諸国が中心的プレーヤーで、日本と中国がこれに加わるという状況であったが、21世紀に入っての20年間でいくつかのアジア諸国をはじめとする新興勢力の国々が上位に入ってくるようになり、多様化が進んできている。
  3. 論文に占める国際共著論文の比率はほとんどの国で一貫して増加する傾向にある。ただし、その傾向は国により大きな違いがある。まず共著比率が高いのはヨーロッパの諸国である。これは地域内の共同研究などの協力体制が整備されていることが寄与していると考えられる。これに対してアメリカの国際共著率は40%以下でそれほど高くない。
  4. 日本は20年前の17%から32%まで増加してきた。ただしこの間に日本の国際共著のうちアメリカが占める比率は44%から32%に低下している。我が国として今後どのような国際共著活動の展開を目指すのかシナリオを考える必要がある。
  5. アジア諸国において、高い国際共著率を示すグループと国際共著率はあまり高くなく国内論文中心のグループの両方が存在している。このような違いが、各国の政策、地理的関係などどのような要因から生まれているかを考察することは日本の今後の国際協力戦略を考える上で有用であろう。
  6. 論文に現れる国際協力としてEUのプログラムが大きな役割を果たしてきており、現在もその影響力は大きいと考えられる。ただ、このほかにいくつかのネットワークが生まれつつあるという状況が明らかになった。具体的には、アジアのインドネシア、マレーシアを軸とするものと、中東のサウジアラビア、エジプトを軸とするものなどである。特にこれらの国々は論文数を急速に拡大し、科学技術における存在感を高めている国々であるので、これらの国々を注視することは有用であると考えられる。

 なお、この章ではページ数の関係もあり、論文の質と国際共著の関わりのデータを紹介していない。被引用数の多いトップ10%論文やトップ1%論文の数や比率で表されることの多い論文の質と国際共著は、全体として強い関係がある。即ち、アメリカを含むどの国においても国際共著論文の方が国内論文よりトップ10%論文の比率などが高くなっている。日本の国際共著率は3割ほどで5割を超える国も多いヨーロッパ諸国よりは低い。このことは国脚共著を更に増加させる余地が残っていることを意味しており、我が国の論文の質の一層の向上を図る観点から科学技術国際協力の今後の展開を考えていくことも検討していいくべきであろう。

(桑原 輝隆)

 

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