外国人留学生 【教育・科学技術イノベーションの現況【2023年版】】

2024.05.14

2-2-3 外国人留学生

1.世界の留学生の現状

OECD(2022)によると、世界の留学生総数は2019年で610万人に達しており、2025年にはパンデミック後の留学ブームも見込んで760万に達すると予測している。ただし、この数値は学位取得留学生に焦点を当てており、1~2セメスターの間、交換・短期留学をする単位取得留学生、語学学校や専門学校の留学生、数週間~数ヵ月の語学留学などは対象外となっているため、それらの留学生数を含めると、さらに大きな数になる。OECDのデータだけでも、留学生数は20年間で400万人強の増加(年率5.5%の伸び)を示しており、留学生教育は成長著しい輸出産業とも言える。しかし、これら外国人留学生のデータを見るときには注意が必要である。表2-24の受入留学生数の総計を見ると、OECDに加盟している各国の留学生数(アメリカのみIIEのデータ)と非OECD加盟国の留学生数を合算したにも関わらず、2019年の留学生総数は上記の610万人と一致していない。OECDもこの留学生総数に関する国別の内訳は明らかにしていない。この理由としては、そもそも世界的に統一された留学生の定義がないため、留学生総数の把握においては困難と混乱が伴うことが挙げられる。例えば、国によっては、移民の子供(外国人学生)と留学生の区別がなかったり、学位を授与する高等教育機関以外に在学する留学生がカウントされていたりするからである。後述のとおり、日本の統計における留学生の定義も英語圏のような主要留学生受入国とは異なる。

かつて、外国留学は、特別な学生(エリート)の特権であり、送出し国または受入れ国で奨学金を受給し、国のために留学することが多かったが、現在では、一般的な学生が私費で留学し、個人の自己実現(キャリアでの成功など)のために留学するケースが大半となっている。

2020年に、OECD諸国で留学生全体の68%を受入れ(表2-24を参照)、OECD諸国の高等教育(学位)課程における在学者総数の7%を留学生が占めている。高等教育(大学)全体における留学生比率が高い国としては、オーストラリア(28%)、ニュージーランド(21%)、英国(19%)が挙げられる。この留学生率は、OECD諸国の学士課程では平均5%程度だが、修士課程では14%、博士課程では24%に達する(ベルギー、オランダ、ニュージーランド、スイス、英国では40%以上を留学生が占める)。日本の場合、学士課程で3%、修士課程で10%、博士課程で21%といずれもOECD諸国の平均を下回っている。

留学生全体の35%強は英語圏のアメリカ、英国、オーストラリア、カナダ(Big 4)に留学している(表2-24を参照)。エラスムス・プラス事業での支援により、ヨーロッパから留学する学生の41%は、同じヨーロッパ諸国に留学(域内留学)している。アジアは最大の留学生市場(供給地)であり、世界の全留学生の58%はアジア出身である。そのうち、中国とインドからの留学生が30%を占め、その3分の2は英語圏に留学している。中国については、非英語圏の留学先では日本が最も多い。アジア出身留学生の比率が高い受入れ国は、日本(93%)、オーストラリア(86%)、アメリカ(77%)、カナダ(64%)である。

留学生受入れ国の市場占有率を見ると、世界の全留学生の15%がアメリカに留学しており、次いで英国が9%、オーストラリアが7%、ドイツが6%、カナダが5%となっている。アメリカの場合、常に留学生数はトップでパンデミック前は100万人を超えていたが、市場占有率は過去数十年間で徐々に下がっている。これは、世界の全留学生数の増加に比べて、アメリカの留学生数の伸びが小さいこと、また、留学先の多様化が進んでいることが背景にある。ドイツでは、留学生も国内学生と同様に原則として、授業料が無料であることが多くの留学生を引き付けている要因となっている。

2.ポスト・パンデミックの留学生事情

留学生獲得はグローバルレベルの厳しい競争の時代に入っており、これまで留学生供給(送出し)国であった中国やインドもこの競争に参加してきている。留学希望者は、①留学のコスト、②キャリアでの成功の見込み、③移民の機会に強い関心を持っており、留学はあくまでも手段であり、留学そのものが目的ではないという意向が強くなっている。留学生供給国の状況には違いが出ており、たとえば、ネパール、スリランカ、ナイジェリアからの留学生は増加しているが、中国、ベトナム、韓国からの留学生流出は減速している。アメリカ、英国、オーストラリアでは、パンデミック前に、中国人学生が留学生全体の3割程度を占めていたため、その減少への危機感は強く、インドへのリクルーティングが強化されると共に、代替市場の開拓が急務となっている。

英語圏を中心とした主要留学生受入れ国を見ると、競合する留学生市場でのリクルーティングにしのぎを削るような状況となっている。前述の留学希望者の意向に合わせるように、英語圏のBig 4では、留学(卒業)後の就労権や移民の機会を拡大している。カナダは2021年より、移民へのパスウェイ政策の下、国内在住の外国人から9万人を移民に誘導しようとしているが、そのうち4万人を留学生の枠としている。アメリカは、選択的実務研修(OPT)において、より多くのSTEM関連の留学生が卒業後3年間アメリカ国内に留まることができるよう期間を延長するだけでなく、その対象分野を拡大し、グリーンカード取得でも優先する政策を取っている。これは、STEM人材の育成における中国の急速な進展(STEM分野の博士取得者数で中国がアメリカよりも多くなった)に対するアメリカ国内での懸念の高まりを反映したものである。オーストラリアは約2年間の国境閉鎖による留学生入学者数の減少を回復すべく、留学後の就労権をより拡大しているだけでなく、政府が国際教育イノベーション基金のもと1,000万ドルを拠出している。一方、オランダでは増加し続ける留学生の受入れを一時停止すべきという意向を教育大臣が示し、デンマークは留学生を引き付けてきた英語による課程を削減することを決めたり、ノルウェーが留学生に対しては大学の授業料を課す方針を発表したり(従来、全学生が授業料無料)と留学生受入れの抑制策を出しているところもある。

昨今、留学生獲得の拡大には、①移民政策、②将来の労働力需要推計に基づく明確な外国人材雇用政策、③留学生獲得戦略の連携が不可欠と言われている。③の戦略については、Big 4を中心に留学生供給国の多様化が課題となっている。留学生供給上位5カ国の割合を見ると、オーストラリア(72%)とカナダ(66%)は、アメリカ(61%)や英国(45%)よりも高いことが指摘されている。英国は、ヨーロッパの多くの国々に近接していることと、それらの国々から英国への留学が確立していることからBig 4の中では幅広い国籍の学生を受入れている(Australian Government 2021)。

3.留学生リクルーティングの変化

英国は、主要な留学生受入れ国の中で、パンデミック中も留学生入学者数の減少が一度もなかったことで注目されている。2030年までに留学生数を60万人(2018年比で3割増)にする国際教育戦略を2019年に発表したが、わずか2年で達成した(2021年現在で68万人)。BrexitによってEUからの留学需要が減少したことによる大学の危機感が、新興市場を含むEU外からの留学生獲得の推進力になっており、具体的には、留学エージェントの活用に拍車がかかっている。今や英国の高等教育機関の留学生の約半数がエージェントに留学先を斡旋されており、この比率はパンデミックで海外リクルーティングができなかった時期に増加した。エージェントへのコミッションは授業料の10%が標準だが、20%以上支払うところも出てきており、一大学で留学エージェントに900万ポンド以上支払う大学もある。 

留学生リクルーティングもリクルーターが世界中を飛び回る手法から近年変化が起きている。たとえば、①データに基づくリクルーティングが重視され、ビジネス・インテリジェンス(BI)ツールの利用が拡大、②デジタル・マーケティングを留学希望者への接触機会や合格者の入学率を増加させるために活用、③多数の大学が参加する共通オンライン・アプリケーションの普及(留学希望者は一度に多くの大学に出願できる)、④多数の留学エージェントがネットワーク化して、アグリゲーターに発展していることなどが挙げられる。アグリゲーターは、大学から見ると、迅速、かつ効率的に世界的リクルーティング・ネットワークを拡大でき、エージェントから見れば、各大学と個別に契約を結ぶことなく、パートナー大学を一気に増やせるという利点がある。カナダ政府は、これらの動向に合わせて、デジタル・マーケティングのために540万カナダドルを拠出している。

4.日本の留学生受入れの現状と課題

日本の留学生30万人計画は、2019年(31.2万人)に達成されたが、その後パンデミックの影響で留学生数が減少し、2022年は23.1万人程度に留まっている。ただし、この数値には日本語学校や専門学校の留学生も含まれているため、OECDやBig 4などの基準(学位課程に在学する留学生数)からいうと、2019年で14.6万人、2022年で12.7万人であり、30万人計画中(2008~2019年)に増加した大学・短大の留学生は4.6万人程度になる。言い換えると、30万人の数値目標達成は、日本語学校と専修学校の急激な留学生増加(前者が3.3倍増、後者が3.1倍増)によってもたらされたものである。その背景には、日本の労働力不足が深刻化するにつれて、それを日本語学校生のアルバイト雇用で解決したいという産業界の動向がプル要因として働いている。日本語学校生が増えると、大学の留学生数が増加するというのが従来のパターンであった。しかし、先述の通り、大学の留学生数の伸びは小さく、専修学校の増加が著しい。これは、日本語学校で東南アジアからの留学生が大きく増加したことに起因している。中国など漢字圏からの留学生は、最長2年間の日本語学校での勉学を経て大学進学に必要な日本語力を習得できる率が高いが、非漢字圏である東南アジアからの留学生の場合、それが困難なため、専修学校への進学者が増えている。少子化による専修学校の定員未充足問題も留学生受入れに拍車をかけている。

前述のような留学を巡る急速な変化が起きているなか、日本は移民政策を持たず、大学での入学試験(渡日、在日が前提)による選考を経て、厳格な定員管理規則の下、収容定員の許容範囲内で留学生を受入れることが主流となっている。さらに、日本の大学における日本語でのカリキュラムと授業(言語障壁)、質量ともにグローバル・スタンダードに乗り遅れている大学教育・研究、日本経済の長期低迷など国内のさまざまな問題が留学生獲得をさらに難しいものにしている。2023年、政府の教育未来創造会議は、10年間で(2033年までに)留学生数を40万人にする目標を掲げたが、その達成に向けて日本の大学は量だけでなく、質も伴った留学生を十分に獲得できるのだろうか。                   

 (太田 浩)

参考:

Australian Government. (2021). Australian Strategy for International Education 2021-2030. https://www.education.gov.au/australian-strategy-international-education-2021-2030/resources/australian-strategy-international-education-2021-2030
OECD.(2022).Education at a Glance 2022. https://www.oecd.org/education/education-at-a-glance/

                              

 

本書をご希望の方はお問い合わせください。
こちらからもご購入いただけます(AMAZON)。

©科学技術国際交流センター

本書の著作権は、科学技術国際交流センターと各著者にありますが、本書の内容を教育や科学技術イノベーションの発展のために自由にお使いいただくことを認めます。ただし、本書の引用においては、出典が「教育・科学技術イノベーションの現況【2023年版】」であることを明記いただくようにお願い致します。

 

 

 

 

 

教育