教育への投資額 【教育・科学技術イノベーションの現況【2023年版】】
2024.05.01
2-2-2 教育への投資額
2019年度の教育への投資額として国内総生産(GDP)に対する公財政支出を示した「表2-1」を見ると、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドなどの社会福祉を重視する北欧諸国において教育への投資額が多いことがわかる。10位以降には、カナダ、オーストリア、アメリカ、オーストラリア、韓国等の国々が並び、20位以降では、英国、トルコ、ドイツと続き、日本はOECD加盟国38か国中の36位とほぼ最下位に位置している。「表2-1」から読み取れることは、「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」において上位に位置するOECD加盟国の多くはGDPに対する公財政支出教育の比率が4%以上に達しており、教育への投資額が多い国ほど、教師養成及び教職員への給与、施設・設備の整備などの教育資源が充実し、それらが児童・生徒の学力に影響していると推察される。ただし、GDPに対する公財政支出教育費の割合がOECD加盟国内で36位と最下位近くに属している日本は、PISAの成績では常に上位に位置している。この理由として、ナショナルカリキュラムとしての「学習指導要領」に基づいた全国一律のハイレベルな教育課程、それらを実施できる教職員、及び現場をサポートする教育行政などの効率的な教育制度の存在が考えられる。しかし、PISAの成績で常に上位に位置し、且つ教育のデジタル化などを通じて世界トップレベルの教育の効率化を実現しているフィンランドでは、GDPに対する公財政支出教育費の割合は5%を超えてOECD加盟国の順位は6位となっている。この点から、日本のPISAにおける優秀な成績は、教育への投資額には反映されない教職員の長時間労働や塾等の教育訓練機関等での私費負担などにより達成されている可能性がある。
GDPに対する公財政支出教育費の割合が高い国であってもPISAのランキングが上位10位以内に到達しない国がある。例えば、連邦制をとる国では、教育財政やカリキュラムが州ごとに異なるため、教育資源や行政サービスが分散してしまい、国全体として教育成果を向上させることが困難であるのかもしれない。
購買力平価(PPP)に基づく「表2-2」をみると、日本の投資額は32か国中第7位と上位に位置している。しかし、概算として児童・生徒数の章で取り上げられている全人口数で同投資額を割り、人口1人あたりの教育への投資額をみると、日本は約1,333米ドルとなっている。これに対してGDPに対する公財政支出教育費の割合がOECD加盟国中1位のノルウェーでは、約5,252米ドル、6位のフィンランドでは約3,242米ドル、13位のアメリカでは約3,094米ドルとなっている。他方で、PPPに基づく投資額で2位と3位を占める中国とインドにおいて、1人当たりの教育への投資額は中国で約661米ドル、インドで約255米ドルとなっており、投資額全体としてみれば巨額であっても、人口規模からみると、1人当たりの投資額が他国と比べて少額となっている。ただ、いずれにせよ日本の1人当たりの教育への投資額は、OECD加盟国中で最下位レベルであり、科学技術が急速に進展し、イノベーティブな人材が求められている今日において現在の教育への投資額が将来の人的資源の構築に十分であるのか、よく検討する必要があるであろう。
(新井 聡)
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